【EU GMP/GDPノンコンプライアンスレポート】ASTROM通信 270号

いよいよ本格的に暑くなってきましたが、いかがお過ごしでいらっしゃいますか。

さて今回は、EUのGMP及びGDPのノンコンプライアンスレポート(Non-Compliance Report)を取り上げたいと思います。
ウォーニングレターに比べて指摘の内容が詳しくないのですが、EUの規制当局がどんな点を指摘しているのか、参考にしてみていただければと思います。

1.EU GMPノンコンプライアンスレポート   

EU GMPノンコンプライアンスレポートは、EUの当局による製薬会社の製造所の査察において、EU GMPに不適合と判断される問題が見つかった場合に発行されるもので、3部構成になっています。
Part1に確認した当局の名前、製造業者の名前、製造所の住所等、Part2にノンコンプライアントな製造オペレーション、Part3に不適合の内容、EUの対策等が書かれています。
査察結果を報告するという点ではウォーニングレターと似ていますが、前述の通り、ウォーニングレターに比べて、指摘の内容があまり詳しくありません。また、不適合を、クリティカル(Critical)、メジャー(Major)、その他(Others)に分類して、クリティカルとメジャーが何件あったかを明記しているという特徴があります。
それでは、Part3の不適合の内容をみていきたいと思います。

■Report No: MT/001NCR/2023

マルタの当局が2022年12月18日にインドの製薬会社を査察し、2023年1月17日付で以下の
ノンコンプライアンスレポートを発行しました。

●ノンコンプライアンスの性質

最初のGMPの査察は、2022年12月3日~8日にEU当局によって実施された。同社は、カプセル、ハードシェル、錠剤(コーティングありとコーティングなし)、使い切り用の小分け包装、丸薬を含む非滅菌医薬品のGMP証明書を申請してあった。微生物学的非無菌性と化学/物理的品質管理もこの製造所で実施されている。査察官は、クリティカル:4件、メジャー:5件、その他:7件の不備を発見した。マルタの医薬品当局で査察レビューグループ(IRG)の会議が開催され、この製造所について、2003/94/ECで定められたGMPの原則とガイドラインの不遵守のステートメントを発行することを決定した。
<主要な査察の指摘事項>
この査察の過程で4件のクリティカルな不備、5件のメジャーな不備が見つかった。
〇クリティカルの指摘事項は下記に関するものである。
-データ・インテグリティに関わる問題
-品質管理ラボで見つかった問題
-適格性評価とバリデーションの活動
-製造活動
〇メジャーの不備は以下の分野でみつかった。
-GMP文書のアーカイブ
-サプライヤの適格性評価と承認
-出発物質のサンプリング
-技術契約
-品質リスクマネジメントを含む品質マネジメントシステム
この製造所には有効なEU GMP認証がないため、医薬品をヨーロッパ市場に出荷すべきでない。

●当局によりとられた/提案された行動

既存の販売承認の延長やバリエーションに販売承認申請がない場合、この製造所の申請は、新しい製造所として承認する必要がある。

●追加のコメント

監督庁のリスクアセスメントのドラフトは2023年1月9日の緊急警戒ネットワークを通じて回覧され、コメントや異議がなかったので、マルタの医薬品当局は、2023年1月17日にGMPノンコンプライアンスレポートを発表し、それにより第三国の当製造業者に、この決定が通知された。

■Report No: SK/001NC/2023

スロバキアの当局が2023年1月25日に自国の製薬会社を査察し、2023年2月1日付で以下のノンコンプライアンスレポートを発行しました。

●ノンコンプライアンスの性質

2023年1月25日の査察中、クリティカル:3件、メジャー:2件の不備がみつかった。
〇クリティカルの不備

  1. QPステートメントは、さらなる加工のための製剤の準備において、パラセタモールとイブプロフェンを含む経口懸濁液と直腸坐剤 はGMPの要件を満たしていると宣言した。
    QPが発行したパラセタモールとイブプロフェンを含む経口懸濁液の分析証明書は、欧州薬局方(Ph.Eur)に従っていると宣言している。発行された両文書は、活動の場所が当局のアセスメントと矛盾している。
  2. いくつかの不備の組み合わせは、医薬品の製造におけるGMP要件の不遵守を示している。
    -交叉汚染のリスクが評価されていない
    -主要な製造の文書が提出されていない
    -顧客のために実施された製造活動が明確に定義されていない
    -投入原材料の管理が、会社で管理されている手順に従って実施されていなかった
    同時に、製造に使用する原材料がQA部門によって承認されていなかった
    -製造に使用する有効成分以外の原材料の同一性が確認されていなかった
    -製品の管理用のサンプルが採取されていない
  3. さらなる加工のための製剤の準備
    パラセタモールとイブプロフェンを含む経口懸濁液と直腸坐剤の製造は、2022年6月15日に発行された製造許可V-5/2022/1の範囲外で実施された。
    〇クリティカルの不備
  4. 製造に使用する有効成分に関する当局の法的要件だけでなく管理された承認手順も遵守されなかった。
  5. 経口懸濁液の調製は、適切な適格性評価のされていない施設で実施され、調製された懸濁液の均質化は検証されていなかった。

●当局によりとられた/提案された行動

製造許可V-5/2022/1の完全な変更
現在有効なGMP証明書の撤回、GMP証明書番号No.SK/008V/2021の制限

●追加のコメント

2023年1月31日までに市場に出荷されたロットは、これらの指摘事項の影響を受けていないので市場から撤回することは提案しない。
当局により十分なGMPレベルが確認されるまでのライセンス活動を停止する。

■Report No: PE010-4379

スペインの当局が2023年4月20日に自国の製薬会社を査察し、2023年6月21日付で以下のノンコンプライアンスレポートを発行しました。

●ノンコンプライアンスの性質

製造所のGMPフォローアップ査察が2023年4月17日~20日に実施された。この査察は製造業者の認証(MIA)に関するEU-GMPの遵守の検証に焦点をあてていた。メジャーとクリティカルに分類されるいくつかの不備が確認された。査察中にEU-GMP遵守不足がみつかった。
クリティカルとメジャーの不備は、概して医薬品品質システム、無菌処理によって調製された無菌医薬品の製造施設の設計とメンテナンス、適格性評価、施設と機器のバリデーションとモニタリングに関連していた。製造所のコンプライアンスと対処されていない不備の履歴が考慮された。無菌製剤によって得られる無菌医薬品の製造および無菌保証は、要求される品質と安全性を保証することはできず、これは、製品の製造の重大なリスクにつながる可能性があり、動物の健康または公衆衛生に害を及ぼす可能性がある。検出されたクリティカル及びメジャーの重大さと、無菌工程で製造された無菌医薬品のEU-GMPの不遵守のレベルは、動物の健康または公衆衛生への潜在的なリスクを除去するために暫定的な監督措置を講じることが推奨される。
査察中にみつかった最も現実の問題に直結するクリティカルな不備は以下の通りである。

  1. 会社で実装されている医薬品の品質保証システムは、リスクを適切に特定し、リスクを回避し施設で製造された医薬品の品質を保証するために必要な対策を講じることができない。この状況は、施設内で製造された製品の種類、とりわけ無菌製剤によって製造された非経口使用の無菌医薬品を考えると深刻である。
  2. 無菌保証の欠如
    2.1 実行された無菌充填工程(培地充填)のシミュレーションは、とりわけ、すべての操作、処理時間、介入が考慮されておらず、一連の決められた無菌工程のバリデーションをカバーしていないため、現在の製造作業が無菌工程で製造された製品の無菌性を維持し保証するのに十分であるという保証はない。
    2.2 無菌的に調製された医薬品に対して行われる製造作業は、EU GMPのAnnex 1のガイドラインに従っていなくて、とりわけ、必要な無菌接続はグレードBで行われるが、無菌の有効成分や無菌の賦形剤を受け取るために使用されるリアクタの滅菌の適格性評価はなく、リアクタの滅菌温度の最小滞留期間はない。温度が121度に達した時、すぐにプロセスが停止し、プロセスのレビュを許可する利用可能な記録もない。ロットの注入中に、たいてい長期にわたるフォーマット変更が行われ、製品と直接接触している露出した機器部品の汚染のリスクがあるが、追加のアクションがとられることがなく注入が続けられている。

メジャーの不備は、とりわけ、洗浄バリデーション、交叉汚染の管理、適格性評価、データ・インテグリティ、プロセスバリデーション、バッチレコード、再加工されたロットの識別でみつかり、クオリファイドパーソンによる監督はトレースが出来ず、記録もされていない。

●当局によりとられた/提案された行動

〇製造許可0722の一部停止
無菌処理による無菌医薬品の製造活動(MIA許可の1.1.1.1および1.1.1.4に対応)は、予防措置としてすでに停止されている。この措置は、無菌医薬品の無菌処理活動に関連した査察中に特定された不備の重大性の結果として発生する可能性のある動物/公衆衛生へのリスクにより適用された。この措置は、査察中に発見された全ての不備が是正され、新しい査察を通じて確認されるまで維持される。この措置には、さらに、当施設内で無菌処理によって製造された医薬品のロットの隔離及び市場に出すことの禁止が含まれる。
〇すでにリリースされたロットの回収
市場にある実在のロットの特定の品質の不備は検出されなかったため、リリースされて市場にある具体的なロットに対するアクション/回収は必要がないとみなす。

出典:http://eudragmdp.ema.europa.eu/inspections/gmpc/searchGMPNonCompliance.do

EU GDPノンコンプライアンスレポート

EU GDPノンコンプライアンスレポートは、EUの当局による医薬品卸売販売業者の査察において、EU GDPに不適合と判断される不備がみつかった場合に発行されるもので、3部構成になっています。
Part1に確認した当局の名前、卸売販売業者の名前、卸売販売業者の住所等、Part2にノンコンプライアントな作業、Part3に不備の内容、当局の対策等が書かれています。
それでは、Part3の不備の内容をみていきたいと思います。

■Report No: sukls32154/2023

チェコの当局が2022/11/18に自国の卸売販売業者を査察し、2023/2/9付で以下のノンコンプライアンスレポートを発行しました。

●1.ノンコンプライアンスの性質

会社は、許可された保管施設を守らず、関連して許可された活動の条件に重大な違反を犯し、医薬品法76条に定められた義務を果たさなかった。

●2.当局によりとられた/提案されたアクション

2020年9月25日付卸売販売業許可sukls192505/2020の差し止め

●3.追加のコメント

会社が許可された保管施設を備えていないので、卸売業許可(WDL)は完全に停止された。

■Report No: sukls68453/2023

チェコの当局が2023/3/14に自国の卸売販売業者を査察し、2023/4/26付で以下のノンコンプライアンスレポートを発行した。

●1.ノンコンプライアンスの性質

会社は、許可された保管施設を守らず、関連して許可された活動の条件に重大な違反を犯し、医薬品法76条に定められた義務を果たさず、クオリファイドパーソンによる業務が保証されていない。

●2.当局によりとられた/提案されたアクション

2020年7月20日付卸売販売業許可sp.zn.sukls119405/2020の差し止め

出典:http://eudragmdp.ema.europa.eu/inspections/view/gdp/viewGDPCertificate.xhtml

まとめ

いかがでしたでしょうか。

EUのノンコンプライアンスレポートは、FDAのウォーニングレターに比べて詳細が書かれていないのでわかりづらい部分もあるのですが、キーワードから、どの分野で指摘があったのかを確認して参考にして頂ければと思います。

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https://drmarketing.jp/cch/73/640/3/377/501330/ee3281

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【発行責任者】

株式会社プロス 『ASTROM通信』担当 橋本奈央子 hashimoto@e-pros.co.jp

※本記事は株式会社プロスの許可を得て転載しております。

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