1)「ハーボニー配合錠」の偽造薬が発覚したこと
ご存じの方も多いと思いますが、C型肝炎治療薬の「ハーボニー配合錠」の偽造薬が奈良県内の薬局チェーンで調剤され、患者に渡るという事件が発生しました。薬局チェーンは、製造販売元のギリアド・サイエンシズ指定の医薬品卸を通した正規ルートとは異なるルートから仕入れたそうです。
その後の東京都の立ち入り調査で、都内の2カ所の卸売販売業者から新たに偽造品ボトルが見つかったそうです。
今回見つかった偽造品は正規のボトルに入っていたものの、本来流通することがないボトル容器単体の状態で流通し、外箱や添付文書がなかったそうです。
にもかかわらず、途中で止まることなく患者に渡ってしまったというのは衝撃的な話です。
海外では偽造医薬品の流通が大きな問題になっていますが、これまで日本では
製造販売業者->医薬品卸->医療機関・調剤薬局->患者のサプライチェーンが厳格に管理され、偽造医薬品の流通が非常に少ない状況でした。しかし、ついに日本でも偽造医薬品が流通する時代に突入したのかもしれません。
■出典
医薬品の適正な流通の確保について(厚労省)
http://www.pmda.go.jp/files/000215920.pdf
C 型肝炎治療薬「ハーボニー配合錠」の偽造品への対応について(厚労省)
http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000149658.pdf
薬事日報
2017年1月20日号、1月23日号
2)製造におけるリスクベースの交差汚染防止の実現と、「共有設備での異なる医薬品の製造におけるリスク識別のための衛生に基づく曝露限度設定ガイドライン」に関するQ&A集ドラフト
2016年12月15日にEMA(European Medicines Agency:欧州医薬品庁)より、14項目からなるQ&A集のドラフトが発出されました。長い名前ですが、“製造におけるリスクベースの交差汚染防止の実現と、「共有設備での異なる医薬品の製造におけるリスク識別のための衛生に基づく曝露限度設定ガイドライン」に関するQ&A集”(Questions and answers on implementation of risk based preventionof cross contamination in production and ‘Guideline on setting health based exposure limits for use in risk identification in the manufacture of different medicinal products in shared facilities (EMA/CHMP/CVMP/SWP/169430/2012))というものです。
本ドラフトは、2017年1月から公の協議を開始し、2017年4月30日までコメントを募集されるそうです。
EUが医薬品製造業者に対して発行するノンコンプライアンスレポート(Non-Compliance Report)には、交差汚染に関する不備の指摘が多いことから、今回はまだドラフト版ではありますが、EUの交差汚染に対する考え方を知る意味で、このQ&A集を見ておきたいと思います。
<Q&A集ドラフト>
Q1:企業は、全ての製品についてHBELs(Health Based Exposure Limits: 衛生に基づく曝露限度)を制定しないといけないのか?
A1:はい、HBELsは、全ての製品について制定すべきである。非常に危険な製品のHBELsは、EMAガイドライン(EMA/CHMP/CVMP/SWP/169430/2012)の通りに、またはそれと同等に、完成されていることが期待される。非常に危険とみなされる製品/有効成分に関してはQ2を見よ。非常に危険なカテゴリには入らない製品は、Q4に書かれている。
Q2:どの製品/有効成分が非常に危険とみなされるか?
A2:非常に危険な製品は、低用量で重大な副作用を起こす可能性があり、安全なHBELを得るために、十分な毒物学的評価が有効である。非常に危険な製品は、固有の毒物学的・薬学的な特性に基づいて識別され、以下のグループがある。
(このリストは、包括的なリストではなく、もし他の作用により低用量で副作用を起こすことを示すエビデンスがあるならば、その製品は非常に危険とみなされるべきである。)
製造業者は、下記のガイダンスに対する安全評価を経て、製品/有効成分が非常に危険かどうかを検討するべきである。製品または有効成分が下記のいずれかのカテゴリに入ることを示すエビデンスがあれば、製品が非常に危険であるとする結果にすべきである。もし確信が持てない時は、製造業者はその製品が潜在的に非常に危険であるとみなし、安全なHBELを得るためにEMAガイドラインを完全に適用すべきである。
- 人に対し発がん性があると知られている、または、高度に発がん性があると思われる遺伝毒性(特に突然変異誘発性)のある化合物
このグループの化合物は、遺伝毒性が薬学と関連(例えば、DNAアルキル化細胞活動抑止剤)し、製品概要に警告文があり、その使用が、通常は腫瘍の症状に限定されているため、容易に識別可能である。 - 低用量で生殖毒性または/及び発達上の影響を起こし得る化合物(例えば、臨床用量<10mg/日(獣医用の用量で0.2mg/kg/日相当)または動物実験における用量 <=1mg/kg/日でそれらの影響を起こすエビデンスがあるもの)
- 低用量で標的器官に重大な毒性またはその他の重大な副作用を生み出し得る化合物(例えば、臨床用量<10mg/日(獣医用の用量で0.2mg/kg/日相当)または動物実験における用量 <=1mg/kg/日でそれらの影響を起こすエビデンスがあるもの)
- 高い薬学的効能を持つ化合物 すなわち、推奨1日用量<1mg(獣医用の用量で0.02mg/kg相当)
- 高い感作性の可能性を持つ化合物
Q3.非常に危険かどうかを判断するための製品評価の裏付けのために、OELs (Occupational Exposure Limits:職業曝露限度)やOBLs (Occupational Exposure Bands:職業曝露帯域)を使用することができるか?
A3:はい。OELまたはOEB(帯域の下限)の仮許可された一日曝露量への外挿は、次の式を使うことによってシンプルになりうる。
PDE(μg/日)=OEL(μg/m3)×10m3(8時間に作業者により吸われる空気容量)目標母集団の潜在的な違い(作業者対患者)、曝露の経路等により、追加の調整係数が必要になるかもしれない。もし、結果のPDE値が10μg/日またはそれより低い場合、その製品は非常に危険であるとみなされるべきである。
Q4:HBELの計算は臨床データのみに基づくことができるか?(例:最小治療用量の1/1000においてHBELを制定する)
A4:臨床の安全性プロフィールの基礎がしっかりし、非常に危険なカテゴリ(Q2の回答参照)に属さない多くの既存の市販品や新製品には、有益な治療上の指標がある。治療用量を超えた時点で、好ましくない、または健康への悪影響が起こるかもしれない。その結果として、薬理活性がもっともよく反応する/重篤な影響になりうる。
この場合は、治療用量の情報は、HBEL(例:PDE)の計算の開始点として用いることができる。これらの状況下で、最小治療用量の1/1000のアプローチに基づくHBELは、十分に保守的で、リスクアセスメントや洗浄目標に利用できうる。
Q5:衛生に基づく限界を決定するためにLD50(Lethal dose 50%:半数致死量)を使用することは許容されるか?
A5:いいえ。LD50は、HBELを決定するための開始点として適切でない。
Q6:洗浄目標に関する基準はどのように制定できるか?
A6:EMAガイドラインは、洗浄基準を正当化するために用いられるかもしれないが、算出したHBELで洗浄基準を設定するために使用されることを意図していない。
洗浄基準は、洗浄工程の不確実性や分析の変動性を説明するのに役立てるために、リスクアセスメントと追加の安全裕度に基づき続けるべきである。最小治療用量の1/1000や、他製品における1製品が10ppmというような産業界で使用され伝統的な洗浄基準は、非常に危険ではない製品に関する洗浄目標を達成しうる。
非常に危険と分類された製品に関し、徹底的なリスクアセスメントにより共有設備内での製造が問題ないことを証明できている場合、洗浄基準はHBELを超える安全ファクタを含めるべきであり、伝統的な洗浄基準のアプローチより高くなるべきではない。
Q7:ヒトまたは動物用のカテゴリの異なる医薬品を作る共通の設備内で、外部寄生虫撲滅薬を製造もしくは一次包装できるか?
A7:もしHBELデータが、共有設備内での製造を支持できないなら、外部寄生虫撲滅薬は専用設備で製造されるべきである。
Q8:同じ設備内で異なる種のための動物用医薬品を製造する時、何が考慮される必要があるか?
A8:HBEL設定ガイドラインは、適用される限界は、一般に、人のPDEを使って導きだせるはずであるとしている。しかし、特定の種(例:馬のモネンシン中毒)の既知の過敏性と関連する特定の懸念がある場合は、特定の動物の毒性の知識を考慮したHBELアプローチが使わるべきである。非常に危険ではない製品については、Q6の回答も適用できる。
Q9:査察官は、HBELを開発する毒物学の専門家の能力をどう判断するか?
A9:査察官は、専門家の経験と適格性の正当性をレビュすることにより、専門家の能力に関する企業の評価を判断すべきである。
Q10:限定したデータしか利用できない初期段階の治験薬には、HBELモデルはどのように適用されるか?
A10:HBELは全ての利用可能なデータに基づいて設定されるべきであり、治験薬に関する評価自体は、手続きに従って、新しいデータが存在するかどうかをレビュされるべきである。毒物学の専門家は、きわめて重要な毒物学的試験が完了していない状態で、重大な効能を示すために、原料の将来の可能性について判断しなければいけない。(例:これは、利用可能な他の類似分子との比較に基づいて行うかもしれない)これは、組織的・技術的な管理手段が必要とされるレベルにおいて、製造業者が最悪のケースを想定し妥当な判断をすることを可能にするだろう。
Q11:小児患者のための製品が、大人や動物に投与する製品との共有設備で製造される場合、HBELsの調整は必要か?
A11:そのような設備内では、HBELの計算に用いられる大人の50kgの標準体重は、より低い体重に置き換えられ(例:子供:20kg、新生児:3.5㎏、未熟児で生まれた新生児:0.5㎏)、最悪の場合を考慮するために、関連するすべての製品に関するHBELの決定に用いられるべきである。
Q12:GMP5章20項の要件を満たすために、HBELsはどのような役割を果たすか?
A12:衛生に基づく評価が終わり、HBELが確認されたら、これらのデータは、現在の組織的・技術的な管理手段が適切かどうかを評価するために、品質リスクマネジメントのプロセスを通じて使用されるべきである。製品/有効成分が危険であればあるほど、内在するリスクは高くなり、重大な組織的・技術的な管理手段が必要とされる。衛生に基づく曝露限度は、受け入れることのできる交差汚染の安全レベルを提供し、洗浄基準の正当性を示すのに使われるべきである。
Q13:交差汚染のリスクを管理する手段として、非常に危険な製品を専用のエリアに単に分離することは好ましいか?
A13:製造業者は、患者の安全を脅かすリスクに対処するための方法として、単にリスクの低い製品からリスクの高い製品を分離することはできない。これは、危険の少ない製品を汚染から防ぐことはできるかもしれないが、より危険の高い製品同士の交差汚染の可能性には対処していない。同じ専用エリア内での個々の非常に危険な製品間の交差汚染に対処するためのアプローチは、同じ専用エリアで製造される製品のグループ内の個々の製品の臨床応用や毒物学上の分析結果を考慮して正当性が証明されるべきである。これは、適切な技術的・組織的管理手段の実施に含むべきである。
Q14:1.5μg/人/日の突然変異を引き起こす製品のガイドラインの中で、TTC(Threshold of Toxicological Concern:毒物学的懸念事項の閾値)の適用は、HBELを制定するための標準的なアプローチとして認められるか?
A14:はい。高い感作性を持つ有効成分と製品をのぞき、認められる。
■出典
Q&A集ドラフト原文
http://www.ema.europa.eu/docs/en_GB/document_library/Other/2017/01/WC500219500.pdf
3)PIC/S GMPの一部改訂について
2016年12月22日PIC/S GMPガイドラインPart1の1章、2章、6章、7章の改訂版が発出されました。
用語については、EU GMPガイドラインの同じ章をベースに変更されています。
また、1章、2章、7章は、ICH Q10との整合性がはかられています。
主な変更点は下記の通りです。
1章 “QUALITY MANAGEMNT”(品質管理)のタイトルを“PHARMACEUTICAL QUALITY SYSTEMS”に変更2章 “PERSONNEL”(人員)に、”コンサルタント“の記述を追加
6章“QUALITY CONTROL”(品質管理)は、全体が改訂され、”テスト方法の技術移転“の記述を追加
7章“CONTRACT MANUFACTURE AND ANALYSIS”(委託製造及び分析)のタイトルを“OUTSOURCES ACTIVITIES”(外部委託作業)に変更、その範囲を拡大
詳しい内容は次回のメールマガジンで取り上げていきたいと思います。
■出典
PIC/S GMPガイドライン
まとめ
1つ目の、日本国内で偽造薬が調剤薬局を経て患者さんの手にわたってしまったというニュースは、日本の医薬品の流通体制に衝撃を与える内容だったと思います。
ただ、価格の高い薬が増えれば、偽造薬が出回るのはある意味当然のことと言えます。
私はこれまで、海外の規制の一部は偽造薬を想定した内容で、日本には厳しすぎるのではないかと思っていましたが、今回のニュースで、わが国でも偽造薬が混入するリスクを想定し、早急に国内GDPの整備と徹底が必要であると強く感じました。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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【発行責任者】
株式会社プロス 『ASTROM通信』担当 橋本奈央子 hashimoto@e-pros.co.jp
※本記事は株式会社プロスの許可を得て転載しております。
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