急に暑くなってきましたが、いかがお過ごしですか。
さて今回は、以下の2つのテーマを取り上げたいと思います。
1.日本のPMDAが初めて発表したオレンジレター 1件
2.FDAがアメリカ国内の製薬会社向けに出したウォーニングレター 1件
PMDAやFDAがどのような点を指摘したかを確認していただければ幸いです。
1.PMDAが初めて発表したオレンジレター
今年度から、日本のPMDA(医薬品医療機器総合機構)は、GMP 調査における指摘事項のうち、
業界への周知が特に有用と考えられる事例について、注意喚起や技術的な参考として年1回
と臨時で公表することになりました。
オレンジレターは臨時で公表されるタイプのほうの呼び名で、FDAのウォーニングレターと違って特定の会社に宛てたものではなく、業界全体で参考となる事案を公表したものです。
今回のオレンジレターは、日本国内の原薬製造所で発生した事例です。
■背景
GMP省令第十条第五号では、原料について、ロットごとに適正である旨を確認し、その結果に関する記録を作成することを求めており、この製造所の手順でも、原料の受入時に、容器に貼付されたラベルにより、供給元のメーカー名を確認し、その記録を残すことが規定されていた。
■確認された事例
原料の容器に貼付されたラベルにメーカー名が未記載であったにもかかわらず、受入担当者は、容器に貼付されたラベルによりメーカー名を確認したように受入記録を作成したが、実際には原料の試験成績書によりメーカー名を確認していた。
■問題点・リスク
・受入時に容器のラベルの確認を怠った場合、本来と異なる原料が入荷しても、検知できない リスクが存在する
・本来入荷すべき原料と異なる原料を使用して製造された製品の品質に、重大な影響を及ぼす危険性が存在する
■チェックポイント
①手順通りにラベルの確認・記録を行っているか
②作業者が業務の意味を理解しているか
③製造所全体で手順を順守する意識が浸透しているか
■対応
原料の取り違えのリスク低減のため、原料の受入~製造工程での仕込みまでの間に、
①原料の受入時の確認
②倉庫からの払い出し時の確認
③製造部門による受入時の確認
④製造工程での仕込み時の確認
といった複数部署によるラベルの確認等を実施すること
出典:https://www.pmda.go.jp/files/000246311.pdf
2.最近のウォーニングレターの概要
注:文中のXXはウォーニングレターでマスキングされている文言及び具体的な社名・品名等です。
■Warning Letter 621313■
2021年9月23日~9月29日のニュージャージー州の製造所の査察でみつかった医薬品製造の重大なCGMP違反について発した2022年3月14日付ウォーニングレターには、下記の指摘事項があげられています。
●CGMP違反
●指摘1
貴社は医薬品の各ロットについて、リリース前に、各有効成分の同一性、濃度を含む、医薬品の最終規格への十分な一致について試験の判断を行うことを怠った。(21 CFR 211.165(a))
<指摘1詳細>
貴社は、貴社のOTC医薬品XXを販売のためにリリースする前に、各有効成分の同一性と濃度に関し、試験を行うことを怠った。さらに貴社は、医薬品XXの承認された規格を持っていなかった。貴社が製造した医薬品が意図した使用目的に適した予め定められた全ての品質属性に一致することを保証するために、試験は不可欠である。貴社の医薬品の各ロットの適切な試験が欠けているため、貴社の医薬品が全ての最終製品の規格に一致し、消費者へのリリースに適しているかどうかわからない。
この文書への回答の中で、以下の情報を提供せよ:
・貴社の試験の業務、手順、方法、装置、文書、分析者の能力の包括的で独立したアセスメント
このレビュに基づき、貴社の試験システムの修正と、その効果の評価のための詳細な計画を提出せよ。
・市場にある製品が適切な仕様に一致していることを保証するための計画
・ロットの処遇を判断する前に貴社の医薬品の各ロットを分析するための化学及び微生物試験
方法と規格のリストと、それに関する文書化された手順
●指摘2
貴社は、同一性、純度、濃度、品質に関する全ての文書化された規格への一致について、各成分のサンプルを試験することを怠った。また貴社は、適切な間隔で成分の供給者をバリデートし、分析試験の信頼性を確認することを怠った。(21 CFR 211.84(d)(1)と(2))
<指摘2詳細>
貴社は、貴社の医薬品XXの製造で使用する前に、有効成分ジメチコンと、ニームオイル、カランジャオイル、ラベンダーを含む他の成分の試験することを怠った。また貴社は、同一性、濃度、品質、純度について、有効成分及びその他の成分が適切な規格へ一致することを確認するための承認された規格も持っていなかった。貴社は、供給者から原材料と一緒に分析証明書を受け取るが、最終製品の製造に使用する前に、受領時の同一性の確認を含む成分のロットの分析を実施していなかった。また貴社は適切な間隔で成分の供給者の分析試験の信頼性の確認をせずに、供給者の分析証明書を信頼した。
この文書への回答の中で、以下の情報を提供せよ:
・成分、容器、蓋の全ての供給者が適格性を評価され、原材料には適切な使用期限または
リテスト日が付与されているかどうかを判断するための、貴社の原材料システムの包括的で
独立したレビュレビュには、成分、容器、蓋の不適切な使用を防ぐための入荷原材料の管理が適切かどうかも判断すべきである。
・製造で使用する成分の各ロットの試験とリリースに使用する化学及び微生物の品質管理の規格
・貴社が、いかに成分の各ロットの同一性、濃度、品質、純度に関する全ての規格への一致を
試験するかの説明
もし貴社が濃度、品質、純度に関して成分の各ロットの試験をする代わりに供給者の分析証明書の結果を受け入れるつもりであれば、初期のバリデーションと定期的な再バリデーションを通じて、供給者の試験結果の信頼性をいかに確実に確認するつもりか明記せよ。
さらに、入荷した成分の各ロットについて、少なくとも1つの同一性試験を常に実施するという約束を含めよ。
●指摘3
貴社は、貴社の医薬品の製造、加工、包装、保持に使用される、自動の機械的電子的装置または、その他のコンピュータを含む装置の適切な性能を保証し、校正の確認や検査の文書化された記録を保持するために設計され文書化されたプログラムに従って定期的に校正・検査・確認することを怠った。
(21 CFR 211.68(a))
<指摘3詳細>
貴社は、貴社の医薬品XXを製造するためにXXを使用していた。貴社は、製造工程がロット毎に制御されていることを保証するためにXXの温度制御機能の精度を校正または検証していなかった。さらに貴社は医薬品の成分を計量するために使用していた秤の校正または適格性評価を怠った。この文書への回答の中で、貴社の全ての製造装置が使用目的に合っていることを保証するための評価結果を提供せよ。さらに、装置の慎重な作業の管理と監視を実施するための是正処置・予防処置(CAPA)の計画を提出せよ。この計画は、とりわけ、装置の性能問題の迅速な検知、効果的な修理の実施、適切な予防的メンテナンス計画の遵守、装置のタイムリーな技術的改善、継続的なマネジメントレビュのためのシステムの改善を保証すべきである。
●指摘4
貴社は、ロット間の均一性を保証するために設計された製造指図書原本の準備のための文書化された手順を制定し、それに従うことを怠った。また貴社は、製造された医薬品の各ロットの製造と管理に関する完全な情報を含むロットの製造指図記録を準備することも怠った。(21 CFR 211.186(a)と211.188)
<指摘4詳細>
貴社は、貴社の医薬品XXのための適切な製造指図書原本を準備していなかった。貴社のバッチレコードは、下記の内容が不足していた:
・製造指図書原本に従っているという承認の署名
・詳細の製造指示
・使用される装置の識別
・サンプリングの情報
・収率
さらに貴社は正当な理由や変更管理がない状態で製造工程にいくつかの変更を行った。例えば、貴社は有効成分ジメチコンと、製造作業中に添加されるその他の成分(例:ニームオイル、カランジャオイル、ラベンダー)の量を変更した。
適切なバッチレコードがなく、貴社は医薬品のロット間の均一性を保証することはできない。この文書への回答の中で以下の情報を提供せよ:
・適切かつ承認済の製造指図書なしに、アメリカ市場に出荷された製品のリスクアセスメント
・製造記録が規定に従って完了し、製品の販売のためのリリース前に品質部門によりレビュされていることを保証するために実施または改訂された手順
・医薬品XXの改訂された製造指図書原本
●指摘5
貴社は、医薬品の製造、加工、包装、保持に従事する各職員がアサインされた機能を果たすことを可能にするために、教育や訓練され、経験を持っていることを保証することを怠った。(21 CFR 211.25(a))
<指摘5詳細>
貴社は、全ての職員がCGMP作業を実施するために適格であることを保証することを怠った。例えば、貴社の共同所有者は、医薬品XXの製剤の唯一の所有者で、工程の全ての知識を持ち、全ての製造作業を実施したと述べた。しかし、貴社には、共同所有者がこれらの機能は実施するための適切な経験を持ち、適切なCGMPの教育を受けているというエビデンスが不足していた。
訓練は職務の適切な遂行を保証するために不可欠である。
この文書への回答の中で、以下の情報を提供せよ:
・以下のことを保証するための訓練計画
〇職員の職務と訓練の必要性が確認され、職員の能力が安定しているかどうかをモニタするために継続的にレビュされていること
〇経営陣の責任と監督が定義されていること
〇職員が適用される全てのCGMPの要件の理解を維持していることを保証するために十分な頻度で訓練が実施されていること
〇CGMPの機能を実施または監督する全ての職員が、CGMPについて適切に訓練され、貴社の作業が医薬品の安全性、同一性、濃度、品質、純度を保証する方法で実施されていること
〇適格性のある個人が訓練を実施すること
〇職員の理解、訓練の効果を評価し、必要に応じて適切な修正が保証されているための規定が実装されていること
・適切な訓練の欠如の販売される医薬品への影響の評価
●指摘6
貴社は、全ての成分、医薬品の容器、蓋、中間材料、包装材料、ラベル、医薬品を承認または拒否する責任と権限を持った品質管理部門を制定することを怠った。(21 CFR 211.22(a))
<指摘6詳細>
貴社には品質部門(QU)と、QUの責任と管理を定義した文書化され承認された手順がない。さらに、貴社は下記のための文書化された責任と手順を制定することを怠った。
・ロットのリリース
・製造工程
・試験の逸脱とCAPA
・苦情
・回収
・医薬品の返品と不合格品の取り扱い
この文書への回答の中で、貴社のQUが効果的に機能するための権限とリソースを与えられていることを保証するための包括的なアセスメントと改善計画を提出せよ。アセスメントには、これに限定されないが以下のことを含めるべきである:
・貴社で使用されている手順が安定していてい適切かどうかの判断
・適切な手順の遵守を評価するための運用全体のQUの監督の規定
・QUがロットの処遇を判断する前の、各ロットとそれに関連する情報の完全で最終的なレビュ
・調査の監督と承認及び全ての製品の同一性、濃度、品質、純度を保証するために、QUのその他の職務からの解放
●品質システム
貴社の品質システムは不十分である。CGMPの要件21 CFR 210及び 211を満たすために、品質システムとリスクマネジメントのアプローチを実装するための助けとしてFDAのガイダンス文書Quality Systems Approach to Pharmaceutical CGMP Regulationsを見よ。
●製造所の繰り返しの違反
2019年6月28日の先の査察で、FDAは同様のCGMPの査察結果を挙げた。これらの査察結果は、2019年12月17日の規制会議でも貴社に通知された。
しかし、貴社の製品は、医薬品として販売され続け、2019年12月17日の規制会議に対応して貴社がとった是正処置は不十分なままである。
さらに貴社は、我々の現在の査察所見に対する具体的な改善処置をとらず、CGMPの規制に従うつもりかどうかも示さなかった。繰り返しの不具合は、経営陣の医薬品製造に対する監督や管理が不十分であることを示している。
●CGMPコンサルタントの推奨
我々が貴社で発見した違反の性質と、貴社が繰り返しの違反の是正を怠っていることから、我々は、CGMPの要件を満たすように貴社を支援するために21 CFR 211.34に記載されている適格性のあるコンサルタントを雇うことを強く勧める。
貴社のコンサルタントの使用は、CGMPを順守するための貴社の義務を軽減するものではない。貴社の経営陣には、継続的なCGMP順守を保証するために、全ての不備とシステムの欠陥を解決する責任が残る。
●不正商標表示と登録/リスト作成の違反
省略
●医薬品の製造停止
貴社のOTC医薬品XXの製造を中止またはラベルを更新する場合、書面で我々に通知せよ。もしこの製品の製造を継続するなら、貴社がいかにCGMP要件を満たすつもりか通知せよ。
●結論
この文書で挙げた違反は、貴社の製造所に存在する違反の包括的なリストでもない。貴社には、違反を調査し、原因を判断し、再発やその他の違反の発生を防止する責任がある。
全ての違反を速やかに是正せよ。この問題への即座の適切な対処の不履行は、制限のない差し押さえ、強制命令を含む、さらなる通知のない制限または法的なアクションにつながるかもしれない。未解決の違反は、他の連邦機関の契約授与も妨げるかもしれない。
違反への対処の不履行は、FDAの輸出証明の発行の差し控えにもつながるかもしれない。全ての違反に完全に対応がされ、我々が貴社のCGMPの遵守を確認するまで、FDAは貴社の医薬品製造業者としての新しい申請やリストの補完の承認を保留するだろう。我々は、貴社が全ての違反に対する是正処置を完了したことを確認するために再査察を行うかもしれない。
出典:
まとめ
初のオレンジレター、いかがでしたでしょうか。
定められた手順を守らないのも問題ですが、供給者が容器にメーカー名を表示するよう徹底してもらうことも必要ではないでしょうか。供給者との力関係で、供給者に依頼ができないといった話を聞くこともありますが、供給者が納品物に品目NoやロットNoのQRコードを表示することで、受入側も入荷時にQRコードを読むことで、品目の取違威を防いだり、メーカーロットNoの転記の手間を省いたりできます。
このあたりは、業界全体で改善していければと思うことです。
それはさておき、オレンジレターは、ウォーニングレターに比べて具体的な対応策が書かれていてわかりやすく、職員の教育にも使えるものだと思いました。
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【発行責任者】
株式会社プロス 『ASTROM通信』担当 橋本奈央子 hashimoto@e-pros.co.jp
※本記事は株式会社プロスの許可を得て転載しております。
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